<life>fool</life>

愚者の人生。

短評『バニシング・ポイント』

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~あらすじ~
ダッヂ・チャレンジャーが爆走する。

 アメリカンニューシネマをたくさん観てみようということでblu-rayで鑑賞。すっごい変な映画だったよ!!!

 ストーリーは「些細な賭けをきっかけにコロラド→サンフランシスコを15時間で走破することに挑戦する男と、それを追う警察の手に汗握るカーチェイス」なのに、陽気なエンタメムービーの雰囲気は一切無く。そもそも物語の始まりとなるはずの賭けからしてほんとに些細で、些細すぎて、最初それがきっかけってことすら解らなかったもんな。『ダーティメリー・クレイジーラリー』がとんでもないエンタメ作品に思えるくらいだよ。この映画に漂うのは静謐だ。

 主人公コワルスキと、彼を応援する人間たちの関係性が良い。誰が親切にしてくれようとも、コワルスキはそれに対して静かな笑みを返して去ってゆくだけだ。誰も彼の内面には入っていけない。コワルスキの心はもはや乾ききっている。まるで彼が走ったアメリカの大地のように。

 コワルスキを応援する人々のうち、印象的なのは盲目のラジオDJスーパーソウルだ。彼の流す音楽がそのまま劇伴音楽の役割を為しており、雰囲気がとても良い。
 コワルスキとスーパーソウルの関係性は特殊だ。ラジオを発信する彼とそれを聴いているコワルスキの間に絆は無い。スーパーソウルはたまたま傍受した警察無線でコワルスキのことを知っただけだし、当然ながら面識も無い。だから絆など産まれようがないのだ。それでもスーパーソウルはコワルスキに言葉を贈る。スーパーソウルはコワルスキを「盲目の仲間」だと言う。「スピードこそ魂の自由」だと彼を讃える。

 ダッヂが走る中、ゆっくりとコワルスキの過去がフラッシュバック形式で明かされてゆく。少しずつ削られていったコワルスキが最後に求めたもの、それがバニシングポイントだ。日本語だと消失点とか限界点といった意味であり、全ての優しさに背を向けてしまうほどになった哀しいコワルスキが、唯一求めていた場所だ。ちょっと『マルドゥック・ヴェロシティ冲方丁』のボイルドを思い出したり。

 ラストのコワルスキの笑みは心に残る。ニヒルもここまでいけば美しいよ。尤も、現実の人間というものはそこまでニヒルを貫くことなどできやしないのだけれど。


バニシング・ポイント [DVD]

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