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<life>fool</life>

愚者の人生。

『シュガーマン 奇跡に愛された男』

洋画・さ行

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~あらすじ~
1970年代初頭にデビューするも上手くいかず、商業的に失敗しアメリカ音楽界から消え去った数年後の1970年代末、どういうわけか突如アメリカから遠く離れた南アフリカ共和国で反アパルトヘイト闘争のシンボルソングとして爆発的にヒットしたアメリカ合衆国の歌手「シュガーマン」ことロドリゲスに迫る内容である。(wikipediaより)

 新宿シネマカリテにて鑑賞してきました。すごく雰囲気良い映画館だったなあ。
 というわけで『シュガーマン 奇跡に愛された男』です。

 事実は小説より奇なりという言葉があるけれど、ここまで物語然とした事実が世界で起きていたのかと、それだけで嬉しくなってしまうようなそんな映画です。時代や舞台もそうだけど、何より出来事の根底にあるものに、名作『インビクタス 負けざる者たち』と同じものを感じました。

 僕は人の創った物がとても好きで、死ぬまでそういうものに触れていたいと常々思っています。けれどもなかにはこういうことを言う人がいます。
 「藝術なんて何の役にも立たない」
 「藝術を感じたところで腹は膨れない」
 そういう人にはこう言いましょう。『シュガーマン 奇跡に愛された男』を観ろと。これはそういう映画です。

 ロドリゲスの音楽はアメリカでは見向きもされませんでした。それこそ、消費すらされずに、ごみのように消え行きます。けれどもどういう訳かアルバムの海賊盤が海を渡り、南アフリカに辿り着き、抑圧され苦しんでいた人々の心に食い込んでいきます。彼の曲を聴いた人々が、今まで知らなかった何かを知り、行動を起こし、アパルトヘイトの撤廃に繋がってゆく。これが藝術の力でなくて何だというのか。ってこれジャンゴの時にも書いたようなフレーズですけども。

 そしてまた、何よりも素晴らしいのはロドリゲス自身の生き様でしょう。名誉欲や金銭欲に動じることもなく、ただその場所で自分がすべきベストを尽くすというその姿には感銘を受けるより他ありません。その言葉の裏には、自負というか自信というか何かすごく力強いものを感じます。もちろんアメリカでアルバムが売れなかったということに全く動じなかった訳では無いでしょうし、失意の日々もあったでしょう。具体的な言葉では語られないのだけどね。けれども彼は間違いなくそれを乗り越え、ある種透徹した境地に至っているように見えました。そういう意味で、ロドリゲスは今回の出来事があってアーティストになったのではなく、最初から今に至るまでアーティストで在り続けているのだなあと感じます。

 なんと言っても霞食って生きていける訳じゃないですし、何かを表現する以上人の目に触れたいというのは当たり前のことです。僕だって、インターネットの片隅でblogやtwitterに思ったこと書き殴って、それだけでも全然楽しいけど、やっぱり反応があると嬉しいもんです。けど、本当に大切なことはやっぱり好きって気持ちや楽しいって気持ちだと思います。ロドリゲスの言うようにね。アルバム売れなくって、契約も解除されて、それでも日々の生活の中で「好きだから」と言って、ギターを弾き歌うことを続けていたから、まさしくタイトルにある通り「奇跡に愛された」のだなあと思うのです。

 もう一つ感じたことは、きっと世界にはたくさんの「ロドリゲスになり得る人」が存在するんだろうなあと言うことです。彼の音楽は間違いなく素晴らしいと思うし、実際これを書いてる今もずっと聴き続けているのだけど、それでもこの奇跡のような出来事はロドリゲスじゃなくても起こり得るよなあと感じるのです。きっとそれは本人も感じていることなんじゃないかなあ。
 世界にはたくさん、きっと一生かけても聴ききれないほどたくさんの音楽が日々生み出されていて、もちろんその中には優れたものとそうではないものがあるけれど、たとえば僕にとって「これはちょっとなあ」と思うような音楽が誰かにとっては宝物かも知れないし、誰かの命を救ってるかもしれない。
 テレビに映っていなくても、CDショップに置いてなくても、今日もどこかで誰かがライブハウスやバーや路上で自分の音楽を一生懸命表現しています。その一人ひとりが、ただそれを愛し続けてゆく意志があるのなら、それだけで人はアーティスト足り得るのだという一つの希望を与えられた気がします。そんなこと、本当は当たり前のことなんだけどさ。当たり前のことほど人は忘れてしまいがちだなあと、そんなことを思いました。

 売れてるものが良い物なら、世界一うまいラーメンはカップラーメンだ。なんてことを甲本ヒロトが言ってました。もちろん良いものは売れるべきだし、実際売れているんだけども、だからと言って売れていないもの=ゴミでは無いのです。良い物はけっこうそこら辺に転がってます。今の世の中ってのはほんとに便利で、音楽だってなんだってちょっと調べれば山のように見つかるし、欲しいと思えばamazonポチーで自宅に届いたりします。ほんの少し、少しだけアンテナ伸ばすだけで、あなたにとっての宝物が見つかるかもしれない。どこかで見つけてもらえるのを待っているかもしれないですよ。
 といった感じで『シュガーマン 奇跡に愛された男』は希望に溢れた非常に素晴らしいドキュメンタリー映画でした。東京では新宿シネマカリテと角川シネマ有楽町で上映中です。シネマカリテの方はレイトショーありますので1300円で観れます。その他の劇場情報はこちら。