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<life>fool</life>

愚者の人生。

『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』

邦画・さ行

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 みんな、そうやって生きてんだよ!

前回の記事、作品の登場人物であるTKD先輩にtwitterでRTして頂いて、これは下手なこと書けないなあと思った。今作についてもなるべく興味を持って貰えるように頑張って書くよー。

~あらすじ~
 青春ヒップホップムービー『SR サイタマノラッパー』の続編。舞台はサイタマよりさらに東京から離れた土地・群馬。こんにゃく屋のひとり娘・アユムら20代後半の女子5人組が、ラップユニット“B-hack”の再結成ライブに向かって奔走する。

 監督である入江悠さんは、本シリーズをいわゆる「プログラムピクチャー」的なものにすると語っている。要するに「男はつらいよ」だったり「釣りバカ日誌」だったり、舞台は変われど主要登場人物の立ち位置や物語の大筋は変わらない映画だ。
 なので今作、主人公を女性に、舞台を群馬に変更しているという点を除けば前作とやっていることは何一つ変わらない。けれどもそういう「お約束」的制約を自らいくつも引き受けているのに、前作と全く違う味わいの映画になっている。
 これは個人的な感想なのだけど、僕は前作を観終わったとき心から「奇跡の映画」だなあと思った。だがしかし、その後今作を観て、前作の奇跡は偶然の産物ではなく、制作陣の熱意と努力によって意図して作り出されたものだったのだと考えるようになった。

 前作において特徴的だったリアリティの描写は、裏を返すと映画的娯楽に欠けていた。それは作品の構成上仕方のないことなのだけど、ともすれば観ているこっちが「投げ出したい」と思ってしまうくらいのものだった。そのようなギリギリのラインを攻め続けることによって、ラストシーンの美しさを際立てていたのだ。翻って今作について考えてみると、娯楽映画としての楽しさは段違いである。それは前作と今作の主人公が抱えるモノが違うからだろう。
 前作の主人公IKKUやTOMが胸に抱える問題は、どこまでも内面的なものである。それと比較して今作の主人公であるアユムやその仲間の抱える問題は、外面的なものによるところが大きい。そもそもの立脚点が違うのだ。

 アユムは実家のこんにゃく屋の仕事をしているし、ミッツーは借金に苦しんでいるけれど、それに対してきちんと向き合う姿勢を示している。マミーもビヨンセもクドーも、今回の主要人物たちはみんな鬱屈とした気持ちを抱えながら、それでいて現実から目を背けてはいない。前作は、生きながら死んでいた人間がもう一度息を吹き返す瞬間の「誕生」の物語だった。それに対して今作は、生き方に迷っている人間がそれを自分の中で再定義するという「成長」の物語だ。登場人物たちは迷ってはいるが、それでも生きていこうとしている。だから観ていて楽しい。彼女たちが集まってラップに興じる姿は、前作のそれとは違って微笑ましく眺めていられる。

 中でも特筆したいのは、物語が動き出す動機付けの場面。B-hackと、あるグループが河原で繰り広げるフリースタイルバトルだ。ここは最高にハッピーなシーンである。(僕はSRシリーズからHIPHOPに興味を持ち、色々と調べていたりしてたんだけど、中でもMCバトルという文化は本当に素晴らしいものだと思った。「ペンは剣よりも強し」ならぬ「マイクは剣よりも強し」を地で行なっている。殴り合いより殺し合いより、全てを音楽に昇華させればいいのだという意志はとても美しいものだと感じる)この場面では、険悪だった2組のグループが、罵り合いながらそれでいて楽しそうに通じ合う瞬間を描いている。前作において、ラストシーンを除いて存在していなかった「HIPHOPの楽しさ」を伝えてくれる素晴らしい場面だ。そしてまた、バトルを強制的に止める人物たちの存在を通して、HIPHOPをバカにする人間の無理解や断絶感も表現している。この一連の流れの出来はとても良い。他にも書けば尽きないような「映画的に」楽しいシーンを交えて、前作よりもUPしたスケール感で作られている今回の続編。かといって、よくある凡庸な青春音楽映画になっているのかと言えばそれは違う。今作はSRシリーズなのだから。

 アユムたちの物語は成功しない。彼女たちが為そうとしていることは、多くの人にとっては受け入れられることではないのだ。ある種無邪気で肯定的に描かれがちな目標を、この映画は容赦なく蹴り飛ばす。冒頭に書いた「みんなそうやって生きてんだよ!」という言葉は、アユムの父親が投げかけるセリフだ。それは現実であり、正論だ。B-hackの再結成ライブが行われることはないのだ。夢物語は現実には存在しない。

 ではその現実を大人しく呑み込んで、日々に折り合いをつけて生きていくことだけが唯一の正解なのか。今作のラストシーンはそういう問いに対し一つの答えを提示している。それは全てを受け入れてなお、自分にとっての幸せを探しに行こうとする瞬間だ。アユムとその仲間たちが選ぶ行動は、自分たちがこれからどう生きるかの高らかな決意表明なのだ。これだけでも素晴らしいのだけど、本作の最も素晴らしい場面は、実はラストシーンの更にその後にある。
 アユムと父の何気ない会話、流れてくるエンディングテーマとその歌詞、それをバックに映し出される風景。田舎であることが否定的に捉えられていたこのシリーズだが、ここで流れる風景は今までと同じように否定的に観えるだろうか?続編映画において一番大切なのは、「前作を超えられるか」という点だ。今作は、変化球に逃げずに真っ当な形で勝負をかけている。決めるのは観客一人ひとりなのだけど、個人的にはこの風景の画によって、完璧な前作超えを果たしていると思った。

 ここまで書いておいてなんだが、実のところ個人的な思い入れや好みだけで言えば、僕は1の方がより好きだ。だけど1は本当に間口の狭い作品だった。それに比べると2はより多くの人に受け入れてもらえる作品になっている。特に女性にとっては、今作の方がよりリアルに受け取れるかもしれない。ともあれ娯楽映画としても、「SR サイタマノラッパー」の続編としても、素晴らしい作品に仕上がっている。入江悠という監督は本当にすごい。是非観て欲しい一本です。

 最後に、ただの感想だけどさ。女の子は強いよねえほんとに…。